一般社団法人超常現象情報研究センター

海外実話
フラットウッヅの怪物

金沢元基  
(宇宙機第8号P4〜6)

  表記、仮名遣い等は、誤記と思われるものも含め、可能な限り原文を踏襲しております。

 一九五二年九月十二日の夜、ここ西部ヴァージニア州の小さな町フラットウッヅに世にも不思議な事件が突発したのだった。この町の女美容師であるキヤスリーンと6人の少年達が息せききって近くの丘をかけ降りて来て口々に「丘の上に化物が出たんだそいつは一五フィートもあるやつで、からだは緑色に輝き、血のしたたるような赤い顔をしていたんだ。たまらないにおいを出しながら僕等の方へぴょんぴょん飛んで来たのさ。フランケンシュタインよりもすごいやつだよ。人間なんてものじゃないね………」と語りあうのだった。彼等は皆蒼白な顔をしていた。そしてその中のあるものはしきりに嘔吐をもよおしていた。
 このうわさはまたたく間に近隣へ広まりもの好きな連中はもとより、警察当局や新聞社等も先を争ってこの事件の眞相解明にのりだしたのである。九月十四日のUP通信は「七人のブラクストン郡の住民達は体臭のあるフランケンシュタインばりの怪物に追われて近くの丘の上から逃げかえったと云っているが警察当局はその悪臭のする怪物は集団幻覚の生み出したものであると言明している」と此間の消息を伝え、怪物の出現については否定的な態度をとったのであった。更にこの事件はABC放送によってその年の一〇大ニュースの一つとして取上げられ、メイ夫人はテレビに出演する運びとなった。勿論ある人々はフラットウッヅのこのような大げさなさわぎを冷笑していた。だがこのように有名になった事件の眞相は一体何であったらうか。前号に紹介した新進気鋭の円盤研究家グレイバーカーはなぜかこの事件に異常に興味をおぼえ早速現地へのりこみ目撃者の少年達と親しく語りあったのである。始めは、この事件に対しまるで否定的であった彼であったが彼等のうちの一人ナンリー少年と話をすすめてゆくにつれて、彼の態度は一変して次のような結論へと導かれるに至ったのである。すなわち、第一に、事件のあったと同じ時刻頃アメリカの各州の上空に不思議な空中現象が起り、それは多くの人々によって流星と考えられたこと、そして第二に七人の証人達は、恐しいしかも見なれない何ものかを、或はむしろ彼等がのべた所のものによく似た何ものかを見たのだということ、この二つを彼は確信したのである。「困難なのはその解釈なのです」と彼が言っているように、とにかく彼は少年達の証言を一応事実として認めたのである。我々はそれを信じようと信じまいと、とにかく事実のあらすじを辿って見ることにしよう。先ずここに七人の目撃者達が登場する。彼等の名はキヤスリン・メイを始めとして彼女の二人の子供達エディ(一三才)とフレッド(一二才)、およびレモン(一七才)ナンリイ(一四才)、シヤヴァ(一〇才)ハイヤー(一〇才)である。
 事件の夕方、この六人の少年達は近くの運動場で遊んでいた。その時彼等は突然奇妙な物体が空を横切ってゆくのをみとめた。それは丁度”空飛ぶ銀貨“のようであり、後部から一条の焔を吹き出していた。やがてそれはぐっと高度を下げると見るまに、丘の上に着陸したのである。ところが、この事件と時を同じくしてフラットウッヅを中心として半径二十マイルの円の内部に住んでいる人々が不思議な空飛ぶ物体を認めているのである。此等は流星として報告されたが、それが通過したのは、西部ヴァージニア、オハイオ、ペンシルヴァニア、ヴアージニア、メリーランド、コロンビア各州の上空であった。またナンリイの祖父であるジョルダンも同じ時刻頃空飛ぶ円盤を目撃した彼はこれまで新聞と聖書しか読んだことのないような男であり、円盤やSFには全然関心をもっていなかったのであるが、彼の目撃した所によると、丁度彼がヴエランダで休んでいたとき、不思議な細長い物体が南東の方角から飛んで来て彼の頭上をぐれんの焔をはきながら丘の方へと消え去っていったのである。さて、少年達が丘の上をじっとみつめた時、彼等はそこにみなれぬあかりがともっているのを発見した。少年達は冒険心に胸をときめかせて丘の上にのぼってみようじやないかと、たちまち相談をまとめた。日はもうすっかり沈んであたりは大部くらくなっていた。そこで彼等は出発に先立ってメイの家へ立寄って懐中電灯を借りてゆくことにした。エデイとフレッドは彼等の母親に、彼等が見た一部始終を物語ったのであるが彼女は一向それを信じようとはしなかった。ところが、彼女が玄関の所へ出て来て丘の上を見た途端、彼女の気持は一変した。丘の上にぽつんとあかりがともっており、それは暗くなったり 明るくなったりしながら脈打っていた。そこで彼女も大いに好奇心をそそられ、少年達の一行に加わってゆくことに心を決めた。少年達のうちで一番としかさのレモンが一行のリーダーとなった。彼等が電灯を頼りに頂上へ近づいた時、奇妙なもやが彼等をとりかこんだ。それは何か金属をもやしたような、嘔吐をもよおさせるようないやなにおいを発していた。頂上には一つのかこいがあって、その入口はこわれていた。一行がこの入口を通って進んだとき、彼等はその天空からやって来た物体にぶつかったのである。それは彼等の右手約五〇フィートの所にあり、巨大な球状の塊であった。ナンリーはそれが大きな火の球で、一定の間隔をおいて、暗くなったり明るくなったり明滅しているのを認めた。他の少年達はその大きさを家と同じ位に考えた。しかしそれが完全に球状であったかどうかははっきりとしていない。ナンリーは全然音を耳にしなかった。しかし他の者はそれが低い音をたてていたと証言した。この物体にみとれていたためにナンリーは彼の左手に立っている大きな影に全然気がつかなかった。そのときレモンは木立の中に動物の眼のようなものがあって、それが一行を照らしているのに気がついた。彼等の頭上約一五フィートの所から人間のような形をした大きなものが彼等を見下していたのである。その顔はまるく、血のように真赤だった。だがその顔に鼻や口があるのに気づいたものは誰もいなかった。ただ眼のような穴が顔の中にあって、そこから緑がかったオレンヂ色の光が流れ出していた。
 不思議なもやをつらぬいてこの光はそこに充満していた。ナンリーを除いて皆その光は自分達を狙っているのだと考えた。怪物の真赤な顔のまわりには暗い頭巾状の形のものがついており、その先はとんがっていた。怪物は頭から胴体までしか見えなかった。メイの懐中電灯の光の中に浮び上ったその怪物は体の中に光源をもっていて、彼女へ向けて光を発射したように思われた。更に彼女は怪物のからだのまわりには衣服に似たひだとものすごい爪があるように思われた。この怪物が地面についていたのか空中に浮んでいたのか、だれもそれを確かめるひまはなかった。臭気は益々烈しくなりそれは彼等ののどや鼻をひどく刺激し、窒息しそうな位であった。突然そいつは上下にぼんぼんはねながら彼等の方へとんで来た。後でナンリーの語った所によれば、それは弧を描き彼等の方へ近づいてはきたが、同時にぐるっと回転して円盤の方へ戻っていったとのことであった。しかしすっかり気もてんとうした彼等は一目散に丘をかけ降り家へ逃げかえったのである。以上が目撃者達の証言のあらましであるがこの話を聞くや物好きな連中は早速探検へとのりだした。先ず事件後三十分ばかりしてこの丘の近くに住むエドワードおよびマルチンという二人の若者達が最初の探検者として丘へのぼっていった。しかし彼等は何も見も聞きもしなかった。また何のにおいもかがなかった。この他に色々の連中がいってみたが同じように何の成果も得られなかったのである。ところが、“ブラックストンデモクラート“の共同編集者であるリースチュアートは役に立つ情報を最初に提供してくれたのである。彼は事件後約三〇分で現場へ到着した。始めは彼も他の研究者達と同様何の結果も得なかったが、ある種のガスは急速に下へひろがってゆくことを知っていたので腰をかがめて地面をかいで見たのである。すると、少年達がかいだのと同じ刺激性のにおいがしてきたのであった。翌朝誰も来ないうちに彼は再びその場所へ行って見た。すると茂ったくさむらの中にスキーをしたようなあとがついているではないか。このあとは怪物が立っていた木の下からつづいていた。それはあたかも誰か巨大な人間がスキーにのって丘の上からすべり降りていったかのようであった。それは草をふみ倒し、石を少しばかしはじへとばしていた。勿論スチュアートの話にも色々批判があらわれた。ある者は、それはまぐさを刈っていた農夫が使っていたトラクターによるものであるといい、また他の者は木の上には狐火がもえていたのであり、また証人達は雄じかを見誤ったのだと主張した。しかしバーカーは調査の結果そのような事実は全くなかったことを認めた。その後彼はメイに会ってもっとくわしい話を引き出そうと努力したのであったが彼女は、バーカーに自分の考えを十分のべようとはしなかった。その筋が彼女の口を封じたのであった。そして公式の発表があってからはこの事件について自由に口をきいてもよいと彼女に忠告したのである。その声明は怪物は政府のロケットでありアンモニヤ、ヒドラジンと硝酸とによって推進するのである」という内容のものであった。それから三年フラットウッヅはまたもとの平凡な町に戻った。あの怪物は何であったらうか。誰も知らない。それが宇宙へ飛立っていったのを見たものはいない。多くの他の事件と同じくこの事件も依然として謎につつまれている。しかしこの事件は歌になった。そして、ヴアージニアの住民は今でも、ラヂオシンガーの、シンデイ・コイがスチールギターのさみしいしらべにあわせて、これを歌うのを熱心に聞くのである。

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