一般社団法人潜在科学研究所 The Potential Science Institute

第24号 失われた都市:コーランの預言者

 「預言者」とは、主として一神教において、神の啓示を伝える人間を言います。したがって『旧約聖書』に登場するエリヤやヨナ、ロト、エゼキエルなどは「予言者」ではなく「預言者」です。英語ではどちらも「prophet」なので、この区別は日本で生まれたものと思われます。
 ユダヤ教やキリスト教と同じく、イスラム教もアッラーを唯一絶対神と仰ぐ一神教ですから、アッラーの啓示を伝えたムハンマドも預言者です。
 さらに『コーラン』には、『旧約聖書』に登場する預言者たちやイエスに加え、独自の預言者たちが登場します。そうした人物に、サーレフ、フード、シュアイブなどがいます。
 これら預言者に関する『コーラン』の記述は非常に簡潔で、どういう活動をしたのかよくわからない部分も多いのですが、後代の民間伝承で補足すると、この3人はいずれも、かのソドムとゴモラのような大災害の伝説を伴っています。『旧約聖書』で言えばロトの役回りです。

 まずはサーレフ。コーランの第7章、第11章、第26章、第27章などが断片的に述べるところでは、サーレハはサムードと呼ばれる民族に遣わされた預言者です。
 サーレハは他の幾多の預言者と同様、唯一絶対神アッラーを崇拝するよう、サムードの人々に呼びかけました。そしてアッラーは徴として、山の中から一頭の牝ラクダを生み出したのですが、サムードの人々は神の恵みのこのラクダを殺してしまいました。神の罰はたちどころに下り、サムード人たちは絶滅してしまいました。助かったのは、サーレフに従う少数の者たちだけでした。
 このサーレフの名を持つ古代遺跡が、現在サウジアラビアに残るマダイン・サーレフです。しかしこれは、実際にはナバタイ人の墓の跡です。

 続くフードについても、神の怒りで滅びた古代都市の伝説が残っています。その都市の名はイラム。日本ではアトランティスやソドムとゴモラほどメジャーではありませんが、世界にはイラムが実在したと信じる人もけっこういるようで、未だに探索を行っているようです。
 イラムは、現在のイエメンにあるアデンの近くにあったと言われ、『コーラン』第89章では「円柱のイラム」と呼ばれています。これは、たくさんの円柱を持つ豪華な宮殿があったことに由来する呼び名です。ここに住んでいたのがアード族と呼ばれる人たちで、伝承ではノアの子として『旧約聖書』にも登場するセムの子がイラム、そしてその孫がアードということです。
 この場所は土地が豊かで、樹木や果実がたくさん茂り、イラムの人たちは豊かで満ち足りた生活をしていたのですが、偶像を崇拝していました。そこで預言者フードが遣わされたものの、アード族は彼の言葉に耳を貸しませんでした。そしてお約束どおり、神の罰を受けます。長いこと干魃が続き、樹木はすべて枯れ、家畜は死に絶え、そして最後は大砂嵐でイラムの都は砂漠に消えました。

 最後のシュアイブは、シリアにあったというマドヤンの町に現れました。ここでもサムード人やアード族同様、人々は彼の言うことを聞きませんでした。マドヤンの町は雷と地震で滅んだということです。

                                 主任研究員羽仁礼記(2012年9月1日配信)

 戻る