一般社団法人潜在科学研究所 The Potential Science Institute

第35号 魂の重さを量った医師(3)

 マクドゥーガルの実験以後、人間を用いた同様の実験は行われていないようです。
 マクドゥーガル自身は15頭の犬について同じような実験を行っていますが、犬の場合死の瞬間の重量変化は確認できなかったとしています。ただし、犬を秤の上で落ち着かせるために2種類の薬物を用いたと述べており、理想としては病気で死に掛けた犬を用いるべきだが、入手できなかったとして、この実験が理想的な条件下で行われたものでないことを認めています(ということは、人為的に犬を殺害したということになります)。
 また論文の中では、「死後肉体を離れる計量可能な存在」があることを示したかもしれないとまでは述べておりますが、より多くの実験が必要であるとも延べております。
 人体に関する実験例が4件のみで、さらに追試も行われていないとすれば、科学的に確認された事実とは言えないでしょう。実験では部屋の温度は一定に保たれたとしていますが、部屋の密閉状況とか秤の信頼性といった細かい部分はよくわかりません。死の瞬間をどう判断するかについても疑問の余地があり、2人目の患者の場合、死の判定は微妙です。4回目の実験で反対者が介入したか書いているところを見ると、部外者が実験現場に侵入できる状況だったのでしょうか。
 というわけで結局は、マクドゥーガル医師とその同僚の実験手順が公正で誤りがなく、また実験結果にも意図的な歪曲がないという前提に立った場合でも、4人の重症患者についてその死の瞬間、あるいはその直後に平均30グラム程度の重量減少が観測され、その原因についてマクドゥーガルらは説明できなかった、という以上の事実は確認できません。もちろんこの実験で、ある程度の重量を持つ「魂」の存在が確認されたとは言えません。
 他方ワイズマンは『超常現象の科学』で、1907年にこの実験が発表された直後の否定的な発言を引いて、次のように述べています。
 「マクドゥーガルの発見が一九〇七年に『ニューヨーク・タイムズ』に掲載されたとき、みずからも医師であるオーガスタス・P・クラークが、舞台に登場した。彼は、人が死ぬ瞬間には肺が血液を冷やせなくなるため体温が急激に上昇する、その結果生じた発汗がマクドゥーガルの言う二十一グラムの体重減少につながったことは、容易に想像がつくと指摘した。・・・犬には汗腺がない(そのためいつも口をハアハアさせて放熱する)ので、死の瞬間に体重が変化しなかったのも当然であるとした。」(P63)
 このクラーク医師の発言は、じつは2003年に出たメアリー・ローチの『Stiff:The Curious Lives of Human Cadavers』からの引用です。そしてこれは『死体はみんな生きている』(NHK出版)として邦訳されているのですが、ワイズマンの著書にある脚注は邦訳に触れていませんでした(おかげで早まって原書を買ってしまいました)。
 しかも、元ネタの『死体はみんな生きている』P207には、このクラークの説明に対しマクドゥーガルが反論し、論争は論文が掲載された「アメリカン・メディシン」誌上で12月号まで続いたと書いてありますが、ワイズマンはこの経緯に一切触れず、
 「マクドゥーガルの発見は、「事実でないのはほぼ確実」というレッテルとともに、科学界の下手物の一つとして片づけられることになった。」(P63)
 と結んでおります。自分の意向にそぐわない部分を削除する形で孫引きをしているわけです。この部分が訳の問題という可能性もあるので、ワイズマンの著書も原書を買って確かめました(批判がましいことを述べる際には、常にも増して慎重な確認が必要と考えたのです)が、この部分は原書も同じでした。ちょっとひどいぞワイズマン(余計な出費もしたし)。

今回の参考:リチャード・ワイズマン『超常現象の科学』文藝春秋
        メアリー・ローチ『死体はみんな生きている』NHK出版
          http://ja.scribd.com/doc/20281719/21-Grams-Hypothesis-Concerning-Soul-Substance-Together-with-Experimental-Evidence-of-The-Existence-of-Such-Substance

                                 主任研究員羽仁礼記(2013年6月15日配信)

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