一般社団法人潜在科学研究所 The Potential Science Institute

第38号 ヴォルフ・メッシング

 最近、タチアナ・ルンギン著『ヴォルフ・メッシング』(Paragon House)を読了しました。メッシングの伝記としては、英語で唯一のものらしいです。もっとも、ロシア語では、懐疑的なものも含めて複数出版されているらしいです。
 内容はメッシングと著者ルンギンの再会から始まり、家族ぐるみの付き合いの中で、メッシング本人から聞いた彼の人生が各所に挿入されております。というわけで、メッシングとの付き合いをつづった回想録というおもむきですが、謎めいたメッシングという人物の本質に光を当てる良著と考えます。
 ヴォルフ・グリゴリエヴィッチ・メッシングは、日本では『ソ連圏の四次元科学』ほか、何冊かの出版物で簡単に紹介されているのみですが、じつは旧ソ連では、かのニーナ・クラギーナよりも有名な人物だったようです。
 スターリンに命じられて、白紙を小切手と思わせることで銀行から大金を引き出したり、警戒厳重なスターリンの執務場所に難なく侵入したりしたとの逸話はかなり知られています。また、ウィーンにあるフロイトのアパートでは、アインシュタイン同席のもとにそのテレパシー能力を披露したとか、インドではマハトマ・ガンジーとも会見したということですが、じつはこうした逸話は、メッシング本人が述べていることのようです。
 一方、旧ソ連という特殊な社会で、このような内容を公言しながらシベリア送りにもされず、1971年には「功労芸術家」(日本で言えば文化功労者に相当するくらいでしょうか)に認定されています。実際、第二次世界大戦中には戦闘機の製造費用を自分のポケットマネーから寄附したというのも事実らしく、要は劇場でのパフォーマーとしてはかなり成功し、政府からも評価された人物ということになります。
 メッシング本人の証言に沿ってその生涯を紹介すると、彼は1899年、ワルシャワ近くのゴラ・カルワリアで生まれたユダヤ人で、11才のとき切符も持たずに列車に乗ってベルリンに出てきました。
 車掌から切符を求められると、とっさに床の紙片を差し出し、車掌がこれを切符と思うよう念じたところ、車掌は疑いもなくこれに鋏を入れて返したそうです。
 ベルリンではカタレプシー(身体硬直)とテレパシーの能力を見出され、舞台で死体を演じたり、読心術のパフォーマンスを始めました。1931年には、かのエリク・ヤン・ハヌッセンに会ったこともあるといいます。
 しかし1937年、ヒトラーが東に向かうと死ぬと予言したため、1939年のドイツのポーランド侵攻を機にソ連に亡命しました。
 このときは、一旦秘密警察に捕まって牢屋に放り込まれたものの、その能力を発揮して刑務所の全員を自分の牢屋の中に引き寄せ、外から鍵をかけて抜け出したと述べております。
 スターリンに無茶振りをされたのは、ソ連に亡命して何ヶ月かしたころでした。

 その他にも、1940年に、赤い星をつけた戦車がベルリンを蹂躙すると予言し、1943年には、戦争が19455月に終わると予言しております。
 メッシングが得意とした出し物は、劇場の観客それぞれがメッシングに行って欲しい行動を紙に書き、その提案が選ばれた観客がメッシングの手首を握ると、メッシングはその思考を読み取って望まれたとおりの行動をとるというものでした。
 そしてメッシング本人も、少なくとも表向きには、自分の能力は「マッスル・リーディング」を極めたものだと述べておりました。ただし、人の心を操ることもできるが、政府に禁じられているとも述べていたようです。
 ロシア語ウィキペディアなんかはけっこう懐疑的で、スターリンとの関係を示す公的資料はなく、フロイトやアインシュタインに会ったという主張も疑わしいとしておりますが、ネット版「プラウダ」(現在は新聞とは独立しているようです)を検索すると、他の有名人と並んで、118日はメッシングの命日と載っています(http://www.pravda.ru/news/society/fashion/11-08-2007/234818-1/)。ただしその肩書きは「催眠術師」になってます。 

今回の参考
Tatiana LunginWolf MessingParagon House
Sheila Ostrander, Lynn SchroederPsychic DiscoveriesMarlowe & Company
http://ru.wikipedia.org/wiki/%D0%9C%D0%B5%D1%81%D1%81%D0%B8%D0%BD%D0%B3,_%D0%92%D0%BE%D0%BB%D1%8C%D1%84_%D0%93%D1%80%D0%B8%D0%B3%D0%BE%D1%80%D1%8C%D0%B5%D0%B2%D0%B8%D1%87
http://www.youtube.com/watch?v=HzypQJ4BGe8

                      主任研究員羽仁礼記(2013年8月15日配信)
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