一般社団法人潜在科学研究所 The Potential Science Institute

第47号 コビトゾウだぞう

 先日、イギリスの超常雑誌「フォーティアン・タイムズ」第252号(2009年8月号)を読み返していたら、いわゆるコビトゾウに関する非常に興味深い記事を発見しました。UMA関係の書物では、20世紀初頭以来のコビトゾウ目撃報告はいろいろと紹介していますが、生物学的にどのような議論が行われているのか詳しいことは載っていないようです。しかしこの記事で、コビトゾウを巡る状況がかなりはっきりしてきました。というわけで、今回のテーマは、最近のゾウ学から見たコビトゾウです。

 まずコビトゾウとは何か、ということですが、基本的には、普通のゾウよりかなり小型のゾウということです。大きさには特に明確な基準はないのですが、かのベルナール・ユーヴェルマン博士によると肩までの高さ(肩高)が 2メートル以下のゾウがコビトゾウだそうです。この2 メートルという基準もじつは問題があるのですが、ともあれ現実には、「コビトゾウ」という言葉は少なくとも3 種類の異なる存在に対し用いられています。

 まずは化石上実在したことが確認されている、絶滅種としての古代ゾウです。こうしたゾウの化石は、地中海の島々やチャンネル諸島、インドネシアなどから出土しています。特にシチリア島のものは、肩高 90センチと、ポニーよりも小型で、大型のセントバーナードくらいです。

 現在未知動物学の対象となっているUMAとしてのコビトゾウは、20世紀初頭以来アフリカで何度も目撃され、時には射殺されています。同じようなコビトゾウの目撃はインドやタイにもありますが、じつはこれらは新種のゾウとしては確認されておりません。

 最後に、ボルネオのサバ州に生息するゾウが便宜上「ボルネオコビトゾウ」と呼ばれていますが、これは生物学的にはアジアゾウです。

 結論から言うと、絶滅種としての化石ゾウは別として、現在「コビトゾウ」という独立した種類のゾウは生物学上認められておりません。ではなぜ、現在に至るまでコビトゾウの目撃報告が続くのでしょう。そこには、個体差や島嶼化といった生物学的現象の他、ゾウという動物固有の特殊事情も絡んでいるようです。

 現在の生物学では、現存するゾウは2属(アジアゾウ属とアフリカゾウ属)3種(アジアゾウ属に1種とアフリカゾウ属に2種)に分類され、アジアゾウはいくつかの亜種に分けられています。

 ここで突然「属」とか「種」とか言いましたが、これは生物学上の分類における階層の1つで、大雑把に言うと「種」が同じであれば生物学上同じ動物であり、交配にまったく支障ありません。「種」の上の分類が「属」で、同じ「属」であっても「種」が異なると、一般には交配に支障をきたすようです。ただしホッキョクグマとヒグマのように、「種」が違っても平気で混血が生まれる場合もあります。これは、種の分類が従来解剖学的な見地から行われており、現在も必ずしも遺伝子上の近縁関係のみに基づいていないことが原因です。というわけで、話をゾウに戻すと、アフリカゾウ属の2 種(ソウゲンゾウとマルミミゾウ)は、じつは平気で混血を残すことができるので、マルミミゾウ(シンリンゾウと呼ぶこともある)をソウゲンゾウの亜種(種よりさらに下位の分類)とする説もあるようです。その場合現存するゾウは、アジアゾウとソウゲンゾウの2 種だけということになります。また意外なことに、外見上そっくりなアジアゾウは、アフリカゾウとは「属」まで違い、しかもアフリカゾウよりマンモスに近いということです。

 このゾウの分類上の問題というのが、アフリカのコビトゾウとけっこう関係してきます。

 じつは20世紀初頭には、アフリカゾウは何と22種類に分けられていたのです。これは、20種類近くが急激に絶滅したということではなく、当時アフリカを訪れたハンターたちが、少し毛色の変わったゾウを射殺すると新種であると主張して新しい学名をつけたがったことが原因です。通常学名には発見者の名前が入りますから、ハンターたちは学名に名を残そうとしたわけです。そして、ゾウという動物はかなり個体差が大きいようです。たとえば蹄の数もけっこう変異があり、小型のマルミミゾウの場合、成長しても肩高2 メートル以下のものがいるようです。つまり、通常のゾウなのですが、サイズの面でコビトゾウの領域に侵入するものもけっこういるのです。というわけで、ハンターたちは小型のゾウを見つけると新種のコビトゾウであると主張したがったようですが、これらはマルミミゾウの個体変異と考えられています。実際2003 年に、ヨーロッパに残るコビトゾウとされる標本9体をDNA鑑定したところ、すべてマルミミゾウという結論が出たそうです。

 コンゴでは、ワカワカと呼ばれるコビトゾウの存在が伝わっており、ワカワカは普通のゾウより毛深いとされています。また、コビトゾウだけが群れを作っていたという報告もあるのですが、じつは子供のゾウはけっこう毛深いのがいるのです。それに大人になりきっていない若いゾウは、同じ年代のゾウだけで群れを作って遊ぶことがわかってきました(人間の子供と似ております)。そこでこうした報告も、子供のゾウや、成長しきっていない小さなゾウの群れを誤認したものと考えられます。

 インドにも現地でカッラーナと呼ばれる、肩高1.5メートルくらいのゾウの話が伝わっていますが、これも本当に成獣かどうかはっきりしていません。また通常のアジアゾウにも、肩高2 メートル以下のものがいるようです。

 ボルネオのコビトゾウは、島嶼化の結果と考えられます。じつはボルネオには、1700年以前にゾウが住んでいたことは確認されておらず、このゾウは、その時期に別のところに住んでいたアジアゾウが島に連れてこられ、島内で繁殖したものと考えられています。自分の意思に反して見知らぬ土地に拉致され、それでもけなげに生き延びたわけです。考えてみれば日本に現在いるブラックバスやミドリガメなんかも同じ境遇なのですが、ボルネオのゾウが保護されているのに対しこちらは排斥されてます。既存の生態系破壊を理由とするなら、最大の破壊者は人類のはずなのですが。

 ともあれ島嶼化です。これは、孤島のような隔絶された環境に生息する生物は、他の場所にいる同種の生物に較べて巨大化したり小型化したりするというものです。このあたりはまっとうな生物学の領域なので、門外漢の羽仁礼は解説を避けますが、ボルネオのゾウもこの島嶼化による小型化と考えられます。非公式にはボルネオコビトゾウと呼ばれ、一部では学名まで提唱されていますが、アジアゾウ・ファミリーの一端であることは明らかで、公式には亜種としてさえ認められていません。

参考:Matt Salusbury「Pint-Sized Pachyderms??」(Fortean Times No.252収録)

                 主任研究員羽仁礼記(2014年4月20日配信)

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